オ ル ガ ン

全山の鼓動ゆるゆる春の昼
菓子袋ほどの春愁もち歩く
手を滑る卵に高さ百千鳥
空気よりつめたき句碑や花こぶし    
途切れたる会話いつかの初桜
しばらくは花の吐息を聞いている
こめかみを桜走っていったきり
返信の二・三行まで花のこと
カウンターの端っこが好き桜月
つくづくし故郷いつも濡れており
岬まで歩いていける貝櫓
緑陰に過去をうすめているらしき
過去帳をちよっと抜け出し夕端居
うまごやし夢の半ばの捨てサイロ
伯母さんの趣味はオルガン遠花火
まなじりをきっと開いて祭り来る
物売りの声が途切れる夕立かな
菖蒲には雨が似合うとざんざ降り
鶯やサクマドロップス散らかして
触覚がまあるくなって花胡瓜
考えてみれば修羅あり蛇苺
桃の箱びっしり戦争が並んでいる
朝顔や除隊願望しておりぬ
切れ字まで遠い宵待ち草通り

2013年(平成25年) 下期 氷原帯投句作品
 

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