シ ネ マ 半 券

丸薬の苦味がよろし朴落葉
立冬やすこし長めの靴の紐
スパゲティ巻き上げている文化の日
箒目のつづく銀杏辺りまで
電柱に敵味方なし冬うらら
にんじんの切口上手な嘘をつく
手荷物の中はがらんどう冬日燦
風邪心地てんでに本を読みついで
テーブルにシネマ半券寒戻る
春愁やブラウスの糊たたきおり
三月の切株自分という他人
源氏物語居座っているつくし原
春大根音するものはみな愉し
ルージュひくさくら上手に散りにけり  
げんげ田に大挙してくる楽譜かな
柱時計の下はモノクロ四月尽
亀鳴くや声出して顔洗いおり
新涼の飛び込んでくる眉間かな
転がっても起きてもついてくる朧
真実は梅花うつぎの暗の中
梅雨ざんざしまい忘れし薬箱
白桃のしぶき昭和の子に憂い
滴りは錐のかたちに鶴の村
郵便夫の白いソックス花杏
洗濯物正しく畳まれて雨月
やわらかに歯痛くる日の野分晴
鰯雲普段の言葉立ち上がる
秋の雷あるだけのジャム並べおり

2002年(平成14年) 氷原帯投句作品
 

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