化 粧 瓶

シャキシャキと洗う青菜と三・一一   
言い訳がつい長くなる 春宵
梅真白後の言葉が見つからず
暮れの春鈴木しづ子が立っている
桜餅そろそろお茶にしましょうか
本当のことは言えない別れ霜
眼差しをゆるく受けとめ椿の夜
落椿みんな忘れたふりをする
うららかやブリキの金魚泳ぎ出す
匂い立つ田上菊舎の花衣
降るための握るための手朧の夜
武四郎の大首飾夏の月
放心の清華亭なり夏安居
緑陰に憂さの一つを下げてくる
直感の時々狂い走り梅雨
白シャツと同じ匂いの化粧瓶
いつまでも無頼に焦がれ夜の秋
夏の雨バス停の名は古潭
恋文の三行までを夕焼ける
豆飯の甘やかに過ぐ鼻の先
一切を捨ててきました夏怒涛
胡瓜もむ嫌いがすこし小さくなる
はつあきや似鳥家具店まで散歩
切れぎれの記憶のなかの衣被

2018年(平成30年) 下期 氷原帯投句作品
 

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