水 位

鶏卵の落ちる音する花のあと
許すこと少し覚えて花は葉に
退屈を幾たび通り花卯木
夏兆す体の中にある水位
いつのまに端居の人となっており
蛇の衣父が居ること居ないこと
長旅の疲れにも似て大手まり
青時雨劇場にある裏玄関
丸椅子に四本の脚晩夏光
あじさいの毬のかたちのことばかな   
風が行く秋の折り目をつけながら
音程の一つくずれて雨月かな
ポストまで内緒の話花白粉
蔦枯れるぬっと出てくる大食堂
海を向く句碑の太文字実浜茄子
一湾を抱いてどこかで花芒
廃橋のぽつんと置かれ反魂草
髪に手を入れてほしくて曼珠沙華
膝に来て遊ぶ月明母の声
一筆啓上身辺淡き野分あと

2018年(平成30年) 第52回 北海道俳句協会賞 正賞受賞作品
(注) 15句目,原句では”実玫瑰”ですが,文字コードの関係から縦書き文字へは”実浜茄子”と変換しました。

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