花 の 冷 え

水仙は西向き郵便夫の通る
陽だまりに言葉の羅列聖書閉づ
花ふぶきいっそ真っ赤な球形に
停車場の春潮見ゆる坂の町
無限大に透けて私の曼珠沙華
表情の失せて薄暑の宝石店
けんらんと喪の帯動く花の冷え
札幌がさっぽろになる散水車
行く春のぽろりぽろりとピアノ音    
囀りや雨後の林を濃くしおり



   星 月 夜

裏切りの遊びしている星月夜
残菊のいろとめどなく翳りけり
透かしみるいのちの果てや菊一輪
自然死を幸いと思う草紅葉
追いつけぬふりして飛ばす秋の蝿
窓から見ていまは木の下ななかまど
冬帽をさがしていた今日のわたし
時雨きて操り人形の肩落ちる
不器用な男時雨に傘を出す
煮こごりは眺めるものと決めており   

1992年(平成4年) 氷原帯 上期俳句鍛錬会応募作品 『花の冷え』
下期俳句鍛錬会応募作品 『星月夜』

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