日 常

私小説風に腐らせてみよう 林檎
銀杏散るいつか宇宙のひとひらに
銃口は北向きにして蕪を煮る
風花や捨子物語は序章から
電飾の道化となりて雪しまく
一月の空ゆく猫の耳二つ
寒卵するりと抜ける謀り事
寒い木に寄れば消される人の形
葱切って日常という褒美受く
春雷と聞きしが言葉には出さず
恋猫や夜がゆっくり熟れてゆく
酔眼に見つめられたる桜もち
菜の花闇下り電車を軋ませて
花冷えが鉄橋に来て止る
春の鬱隠し上手な人がいて
音ありて音ありて夜の花時計
ちょっと不幸な話だね花の下
川霧や少女の足の細かりし
下駄鳴らし夏大股にやってくる
青梅や母が記憶の匙加減
麦の波光る言葉を滴らせ
サルビアサルビア海の音が聞こえる   
冷酒のむ肝心な事には触れず
合歓の花うすい時間に咲くという
面白いと思う睡蓮の暗やみ
燈を消してからの即興詩人かな
秋めきて少年賢治に溺れおり
盆のあと風は縦糸ばかり織る

1993年(平成5年) 氷原帯投句作品
 

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