土 筆 摘 む

地球儀に腰までつかり土筆摘む
春泥や会釈ととのえし時間かな
半睡に水の音する春の昼
木の芽風耳鳴りのごと大挙して
木の芽時五官華麗に犯される
みどりごの両手びっしり花こぶし
ふきのとう蘂ひっそりと聞き上手    
五月雨やわが相聞の鍵の束
地下電車揺れにつきくる花の筋
新樹光透かせば傷もある履歴



   蕪 汁

昇天する時刻明るい菊でいる
秋刀魚焼くいぶし出される女偏
ポケットに銭鳴る音やたぬきそば
傷ついてからの賑わい大落葉
首落ちる音して枯葉の遁走
胡桃割る人憎むこと少しして
凶作田風も光も弓形に
霜月の霜踏み犬の通り過ぐ
ちちははの声どっとくる蕪汁
立てつけの悪きも馴染み湯豆腐鍋    

1993年(平成5年) 氷原帯 上期俳句鍛錬会応募作品 『土筆摘む』 準賞受賞
下期俳句鍛錬会応募作品 『蕪汁』 準賞受賞

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