ピ ア ス

寒い木やポエムの森に行きそびれ
小春日の優しい嘘の中にいる
雪降りのコップきりりと磨かれる
枯菊のみんな素直に傾けり
蜜柑むく十指すみやかに集合す
初雪のおぼつかなきを愛しめり
地球儀のゆっくり目覚む大旦
雪くれば三日ほとほと飽みてきし
元朝の地球儀ことりと眠りたる
赤ん坊初日やすやすと掴みけり
まな板を洗いて春の葬送る
猫柳火の手のように産まれけり
風邪の子にすこし濃いめの砂糖水
脚本などもとより持たぬ木の芽時
機動隊ふうにおとこ立つ花芽どき
ちょっとばかりの不幸に酔いてさくら山 
朧月 少年のピアスが眠い
母の日を網棚に乗せ快走す
風生まるる連翹がぼうぼうと熱い
深爪して今日の桜を見送りぬ
新樹光やすやす毀す人体図
甲斐性の話豆飯光りたる
父の老い見て見ぬふりの夏帽子
風鈴の音なき音を聞いており
原爆忌水をすくいし指がない
文一つポストに落し蝉時雨
秋晴れの赤子多彩な指もてり
プチトマトもぎるさりげなく死の話

1994年(平成6年) 氷原帯投句作品
 

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【花畔・網】