寒 の 雨

秋思かな色つき眼鏡を買いにけり
霜月や内耳に鈴を棲まわせて
梨売りの横顔ゆっくり水になる
小春日や雑駁という字書いてます
四囲すでに梱包されて 雪
元旦や点眼液をなだめたり
山頭火の欠伸に初日のまれけり
海鳴りに会いにいきたる年男
龍之介と遊べば匂う寒の雨
綿雪の綿の真ん中歩きおり
傷癒えてからの独白ぼたん雪
冬帽の庇のあたり父のいて
一心不乱な午後ですもやしの髭ぬいて  
骨四、五本抜いて流氷動き出す
屋根裏にはまるめた春愁がいっぱい
吊革に吊られ総身四月かな
鍵穴の暗闇 ふうっと花疲れ
はらみ猫尻尾はたりと道を打つ
玉葱が転がっている八月十五日
陽炎のぬくさで通す中年期
包丁を新調しました梅雨前線
鰯雲見ていて地球に埋もれけり
昼花火研師の面のゆうらゆら
シャツの袖ひいて一人の良夜かな
にぎやかに逝けとばかりに赤蜻蛉
最後まで長女顔して菊枯るる
バンダナを緩める少年だけの月
満月を置いて裏切りという遊び

1995年(平成7年) 氷原帯投句作品
 

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