青 梅

霜の夜の俎板たっぷり水ふくむ
ぶつ切りの大根訛りをあぶりだす
損得に遠き鼻梁や漬菜食ぶ
冬薔薇母に賞罰なかりけり
恋猫に奪われている膝頭
雪礫目減りしてゆくふるさと
雪晴間臓器くまなく目覚めたり
雪解かなシャチハタ印を強く押す
遠き日や口開く貝と遊びおり
ペアウォッチ探してみたり花曇
犬猫の視座の真ん中かげろひぬ
鳥帰る波の形に万華鏡
近づいてみる ふきのとうの憤死
蝶がゆくわたしは無職の手をかざす
陽炎の山駆け下りて保育園
ファクシミリ季語不備にて候
曝すものなくて夜店の水中花
百合の風越し棟梁の腰決まる
ふるさとが膨らんでいる緑陰
合歓の木に入る化粧の手を止めて
青梅の熟れた先から恋しがる
鶏頭花狂いだしたるカルテかな
桔梗の目覚めに動く沢の水
ふるさとを預けてきたり吾亦紅
ロックンロール四、五本は動く花すすき 
鬼灯や戦ぎらいの白エプロン
雪虫の舞いて戸籍が軽くなる
満月や梯子一本所望する

1996年(平成8年) 氷原帯投句作品
 

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