水 の 列

夕立や乳の匂いとすれ違う
少年期熟るれば葱の目線とも
連翹のたわみ激しき葬の後
すれ違う蝶とわたしの心音
恋猫の戦歴を転がしている
枯れ草やテロリストが発火する
地球儀を廻せばにっぽん黄落す
ななかまど炎える時間はたっぷりある  
寒苺光ればいつかかがみおり
冬銀河スポンジの水乾き切る
重心の片寄っている寒卵
如月の指が覚えし水の列
鮟鱇の顎の後先歩きおり
鳥たたせ老婆は粥の用意する
天才と狂人の間 日脚伸ぶ

1996年(平成8年) 第32回 氷原帯準新人賞 受賞作品 (既発表作品15句)
 

- 23 -
  

【花畔・網】