残暑差し上げます

秋天や胃袋ぴたぴた透けている
いっぽんの紐となりたる冬の川
あの世へと声太らせる白牡丹
牡丹やすり減っていく昼時間
時計屋の片恋雪の晴間かな
白鳥湖カレーライスを食べようか
恋猫や四角四面に歩きおり
葬の月鍋に産直わかめかな
風の上に風走りたる四月かな
新刊書積まれしままに花の冷え
暖かい日だねと言ってまた黙る
病み抜けてほとほと白し薯の花
紫陽花の千の眼がこちら向く
ぼうたんや動悸のように落ちにけり
手の内は明かされている花の昼
おしゃべりが集まってくる大西日
胸板に硬貨しのばす花林檎
冷麦や赤を選べば箸すべる
直角に来る郵便夫の白いシャツ
滴りの落ちる間合いや握り飯
置き去りに慣れて白蓮うす明り
黙祷の手からきりきり蝶生まる
秋あざみ振り向きざまに海
川霧を抜けて整う耳の位置
すすき原獣の匂いさせて漕ぐ
出生地探しあぐねて秋桜
すくったばかりの残暑差し上げます   
雨粒の光れば菊の刃かな

1997年(平成9年) 氷原帯投句作品
 

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【花畔・網】