朝 の 胃 袋

カルシウム剤片足ずつに凍てゆるむ
雪帽のさびしがりやがあそこにも
菜箸のころがす先の寒卵
草稿の乾きやすくて春なかば
雪解光低く迎える鉄の町
朝の胃袋つれてただいま卒業す
水温む動かすものの欲しくあり
言い訳を重ね柳絮の風どまり
おしゃべりな鬼が出てくる野焼かな   
春の雷いつか少女の眼をもてり



   秋 の 景

新涼や魚市場に目が揃う
秋の噴水一人称で消えゆけり
秋声に無頼な夢をすこしみる
ズブロッカ幻想林檎煮つまる音のする  
郵便車追いきれづコスモスしきりなり
ここが風の在処 にわかに女郎花
木偶人形唇よりの冷え心地
乾物屋の秋意つれ来る面やつれ
競艇所救急車を止める晩夏
噂話もこのあたりかな山紅葉

1989年(平成元年) 氷原帯 上期俳句鍛錬会応募作品 『朝の胃袋』 正賞受賞
下期俳句鍛錬会応募作品 『秋の景』

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