狂 じ み て

起重機の首秋天を脅かし
ぶつぎりの凍雲身のうちさわがしき
今日も猛暑弟声高に来て帰る
冬ざれや湯呑み回してもかなし
乳くさき声が連れくる寒波かな
冬帽をもうかぶっている「山頭火」
つんと雪晴れひとの訃ばかり集めたがる
古本屋雪の湿りによみがえる
雪烈しコーヒー茶碗は大ぶりを
寒気団居座るなかの美容室
魚偏並べてぬくき午後となり
冬ざれに憤死する気の一樹あり
ねむい地球儀とわたしにたっぷり日脚伸ぶ
冴ゆる夜は絵の具こぼして狂じみて
一皿の塩待つ夜の雪しまく
節分の闇からごわっと父の声
浜防風にかくれて吹ける風もあり
ガンと闘う姉五十三才の春半ば
新樹光丸薬飲み込んでしまいけり
芹を抱く左手から水あふれ
竿売りの声の間合いにある盛夏
赤めの紅引いてみる鬱夏至の雨
薫風や葱は低めに育ちけり
朝も見て今も見ている夏の蝶
鶏の首しめてからの猛暑
ラムネ飲むビン底に父の眼鏡あり
夏木立父の弱気にすれちがう
それ以後の生まれです八月十五日

1990年(平成2年) 氷原帯投句作品
 

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