花 を 待 つ

猫ぶっている犬ぶっている春野
暖かし飴玉そろそろなくなりぬ
鋭角に切る春昼という紙袋
たゆめば春起重機のダンス軽快に
立春に捨てるつもりの過去があり
干物屋の先ず影二つ折りに来る
花を待つおばとは三つ違いなり
朝の蜘蛛透ける重みを持ち歩く
陽炎もえるこちら球児の大写し
トランプの顔のっぺりと春の風邪    



   赤 な ん ば ん

ももぶどうひらがなでくる秋意
赤なんばん吊るし道化師また消える
秋天や螺旋階段の高欠伸
鉄筋工月傾くまでの靴底
耳寒し少年いささか危うくて
夢遊病者の陰謀半切りの月が出て
とうきび食む月真っ直ぐに母を恋う
梨を剥く骨格はすでに毀されている   
泣いた男も好きです燗酒もう一本
秋袷風の歩幅は確かなり

1990年(平成2年) 氷原帯 上期俳句鍛錬会応募作品 『花を待つ』 佳作
下期俳句鍛錬会応募作品 『赤なんばん』

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