初 蝶

冬めくや托鉢僧の衣の色
煮凝りの軽さで妻をおし通す
霜夜かなほろほろ恋のしたき身に
霜ふる夜耳を無にして座りおり
ベーコンの切口寒さつれてくる
冬うらら胸のボタンを掛け違う
元朝や人のかたちに神眠る
初湯こぼして詮なきことの二つ三つ   
燐寸擦るかすかに動く流氷群
雪割ってさみしい朝に血を殖やす
折り鶴の落下どう見ても悲色
釣り船の小さきを見に春の坂
背を押されおどけ仕草の春きたる
ふるるんと辛夷散る山恋しかり
パセリ咀む気負いさみしも少年期
初蝶の平らに飛べば平らに消ゆ
新樹光骨透けてくるから鬱
喜雨一過ちょっと真面目に散薬飲む
桜見る父の晩年私も見る
藤棚のあたりか声の遠からず
夏萩や膝から座り雨の午後
夏の帽少年一気に海
危うくて確かなりけり桃の尻
ほとばしる水見る不思議原爆忌
胡瓜もむ手の中にたっぷりと殺意
少年と西日黙して歩きおり
水打ちてひょこひょこ母とオセロ打つ
夕焼けをふところにして男声

1991年(平成3年) 氷原帯投句作品
 

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