野 分

声という声がまんまる水芭蕉
百合の中おんな二つのむなづくし
非常口確かめ背高泡立草
先頭を切る蜻蛉のちからかな
そんなものもあった気がする捨て扇子  
船着いて腰おちつかぬ蕎麦の花
前髪を上げたときから山法師
方眼紙に涙目のあり野分あと
青すだち握りつぶした相聞歌
十六夜に原籍という舟遊び
人の死のこんなに近い寒卵
膝を抱くさみしさに似て柚子一つ
この辺で髪に手をやる汀女の忌
スキャナーをゆっくり抜けていく新涼
紅葉山どこかにわたしの時刻表
ぐし縫いの真っ只中を秋の虹
秋雨前線張り出しているキルト
いっぽんという樹いちまいの秋湿り
クレオパトラ楊貴妃小町萩の揺れ
鳥渡る糊効いているオブラート

2007年(平成19年) 第41回 北海道俳句協会賞 準賞受賞作品
 

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