襖

曼珠沙華こうあちこちに咲かれては   
盤石な顔を遠くに大花野
電柱のぬっと出てくる霜の朝
紙鋏切れ味よろし今朝立冬
片腕を貸したばかりに冬に入る
海鼠かな気だるい時間つぶしとも
もの少し書きたるのちの襖かな
雪だるまとうに忘れた人嫌い
鬱の字のてんでばらばら窓の冬
やわらかに君せめており雪の音
もぞもぞとなにか言ってる年男
産土神に一片の文雪女郎
てにおはは帯のうしろに雪女郎
パンドラの箱があちこちどんどの火
とりあえず建国記念日座り胼胝
辞書の背を揃えていたり雪解光
おしろいの乗りは万全初桜
たとうれば深傷はりはり水菜噛む
正論は崩さぬように初の蝶
肝心なことには触れずふきのとう
水中花しきりに妻の騒がしき
夏帽と馴れ合っている柱かな
立身出世ケ・セラ・セラ立葵
物干した手のやり場なき半夏生
ほほきぐさ今夜は眠れそうもない
あれこれと思案の末の花すすき
林檎食む悪党のごと顎出して
鎌倉に行きたし吾亦紅熟す

2008年(平成20年) 氷原帯投句作品
 

- 45 -
  

【花畔・網】