糸 ぼ こ り

そぞろ寒職業欄は主婦と書く
こだわりの心ほどきて毛糸巻く
新米の研ぎ汁白く妻の幸
俳誌読む専業主婦は風邪心地
祭りきて少女は顔を張りかえる
落花生子の問いかけは素っ裸
庭隅の枯葉の宿に一泊す
地下街を出でて初秋の息継ぎぬ
黒豆を煮てふる里の夢すこし
ぼろぼろと雪つむ記憶屋敷跡
毛糸編む昨日の我にあらずして
炭俵記憶の底をころがしぬ
埋火や語り部息つぎ話つぎ
アイロンのほむらの先の糸ぼこり    
オホーツクはふる里の海冬の海
雪しまく道に花抱く人のあり
諍いの心の底に温湯抱く
双手ひろげ春昼という中に立つ
放心の掌に物種の呼吸音
父の忌の切口痛し水仙花
紙風船飛ばし暮れそむ西病棟
恋猫の蒼き瞳にとらわるる
蜆汁吸いて事足る不安とは
摘まれたる防風籠に放心す
鴉殺し少女の唇のやわらかし

1984年(昭和59年) 氷原帯投句作品
 

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