月 の 船

振り向けば早や恋猫になる構え
生醤油の匂う廊下や梅日和
ネクタイをゆるめて通る花の駅
ゆっくりと父降りてくるさくらの夜   
包帯を巻き直しおり鳥の恋
草も木も一兵卒や虎が雨
帰る日も母眠りおり花えんどう
遠蛙いつか話のまとまって
舟虫を見る舟虫のかたちして
手を振るは手を離すこと夏の霜
箸立ての箸に丈あり晩夏光
三秋や倒して食べるミルフィーユ
針に糸そんな決まりの秋の雲
髪切って風の高さの白露かな
長雨や秋から秋の単線路
ここまでが河口蜻蛉群れており
明日には水の底なる赤まんま
無花果もひとつの袋ぼんのくぼ
吾亦紅跳んで弾んでいて無口
糸底をきちんと洗い月の船

2011年(平成23年) 第45回 北海道俳句協会賞 応募作品
 

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