甲 乙 丙 丁

いつか抱く骨の音する銀杏かな
父の髭撫ぜてきたのに花木蓮
釣瓶落しの落し処を見に行かむ
菊月の菊のにおいの青磁かな
ともだちと思っていたが曼珠沙華
最初から抱かれるつもり曼珠沙華
銃口の四方八方曼珠沙華
背かれてからの年月曼珠沙華
フランネルシャツおとうと涙もろくなり 
新蕎麦にすこし短い箸の丈
初霜と聞けば一日霜女
初雪の根性なしと買い物に
弁当の殻のくしゃくしゃ冬ざるる
セーターの中の身体を整える
ボストンバック中の寒さを順に出す
一身上の都合でしようか虎落笛
甲乙丙丁ぬっと出てくる枯葎
凍滝のかたち無政府主義者とも
暮れの雪葬の荷物は小さめに
冬晴れや死化粧したる人に会う
コンパスの一本足と桜闇
三・一一開けば口の渇きたる
存分に意志あり朧三日月
出棺をすませたばかり春手套

2012年(平成24年) 上期 氷原帯投句作品
 

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