夏 帽 子

飾り気のない人だった戻り雪
たっぷりと塩をふくみし春の昼
馴れ合うも一つのちから鳥雲に
人に付く遊びもありぬ花曇り
バス停の一人となりて今日穀雨
春の昼輪ゴム蛇口に繋がれて
セクシャルな晶子それとも八重桜
白藤のもてなし上手にもてなされ
どこまでが夢どこまでが白桃の
伐採の音が胸中夏の果て
朴の花耳が程よく遠くなり
さよならの後八月を咀嚼する
あたらしく石に名を彫り夜の新樹
又来ると言っていたのに夏帽子
天道虫の脚力今日が動き出す
存在のチカチカ問われ木下闇
山滴る舟を編むこと揺れること
白靴を句碑のうしろで正しおり
炎天が句碑と並んで立っている
望みあり句碑の一文青葉騒
胸中の花火疑うこと知らず
うまそうに煙草吸う人星祭り
数珠買いに鎌倉までの夏灯
レモンの切り口ばかりではない 嘘   

2012年(平成24年) 下期 氷原帯投句作品
 

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