木 の 意 志

健やかな声帯である秋桜
石鹸のごつりと落ちる夜の寒さ
眼中の杭立ち上がる十二月
冬すさび牛乳瓶の底厚し
風花のさしがね号外配られる
鉛筆を削るそくそくと春時雨
あっけらかんと空曳いてくる初の蝶
こんなにも明るい雪の底意かな
居合わせたばかりにわれも陽炎いぬ
雛の夜の取り残された時間かな
読点の数だけ海猫多喜二の忌
囃されて葱坊主になりにけり
木の意志の一直線に春かすみ
秒針が人間くさくなる二月
三月や耳のうしろで水の音
水飲めば水の重量朧の夜
調律はまだ途中です春もよい
囀りや期限切れたるバスカード
囀りのてっぺん極楽曼荼羅図
つくしつくしおどけて木偶になりすます 
つくづくと隣家を見たり葱下げて
動機は花ミステリーを二、三冊
幸せに不慣れな漢朴の花
夕立のまるい空気の中にいる
頬紅をすこし濃いめに花水木
生き下手を貫いて青唐辛子
炎ゆる日の声から先に入りたる
腕の中ふと見てしまう大西日

1999年(平成11年) 氷原帯投句作品
 

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