切 子 グ ラ ス

晴れのち曇り菊が育てし天地人
落葉踏む消したきもののなにかある   
大根のかくし包丁雪催い
手の中の言い訳ぼたん雪つもる
一月の空に一筆啓上す
雪の日は雪の日色に地下茶房
まっさらな水曜日です風花です
ゆっくりと老女をたたむ花の夜
朧月まずは眼鏡を拭きにけり
音たてて水飲む木蓮日和かな
言うほどの不幸もなくて雪解風
曇天の日のさわさわと花連翹
抜け道を用意しているつくし村
春菊や午後より華麗な鬱が来て
桜雨象にふるさとありにけり
遠郭公水の匂いの立話
目を肥やせいまをさかりに薯の花
木下闇かな文字でくる風の音
名月をのんで健やかなる臓腑
光体に近づく時間濃紫陽花
あぶらげをカリッと焦がす半夏生
金平糖の明るさでくる夏の風邪
分身が居座っている木下闇
新涼や切子グラスを二つ買う
霧の音発火すれすれの海面
鳥渡る万障繰り上げて候
菊の香の残る手のひらたたみおり
帰る気のない秋蝶と一つ部屋

2000年(平成12年) 氷原帯投句作品
 

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