逃 げ 水

垂直に日は落ちてきし三が日
凍魚断たれてのちのうすあかり
音立ててくるもののあり春の蝿
夜明けにはとび立つつもりふきのとう  
二つまで身の上話桜餅
長葱の足を揃えて祭りかな
風景を動かすように罌粟ひらく
逃げ水を追うぜいたくな時間なり
面白くなるぞ蜻蛉湧きにけり
草紅葉素面の猫が通りたる
かなしさともちがう銀杏ふりしきる
青磁器を抜けて雪虫産まれけり
初の雪首のうしろがもろくなる
北風に盗まれてゆく相聞歌
鳥の目をもつ風花に会いにけり

2000年(平成12年) 第47回 氷原帯賞 受賞作品 (既発表作品15句)
 

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