枇 杷

わたしにも男友達春手套
白鳥の白透けるまで 沈黙
割って入るつもりはないが春霞
花曇り図書館の椅子のふわふわ
下宿屋に慣れたる頃や花菜月
恋猫の妙に尖りし背の辺り
あの頃はよかったなんて青葉騒
舟虫のかたちで恋を待つと言う
はつなつや正面にある船着場
立ったまま齧る食パン走り梅雨
どくだみや今日もどこかで物語
緑陰をはみ出している麟太句碑
白蓮に取り残された景色かな
目を凝らす構えが出来て額の花
落款にかすかなゆがみ貝風鈴
笑い合ってそして別れた日の青田
夏蒲団ふわりと父を隠したり
おしぼりと枇杷と時間が置いてある   
退屈な午後なり一樹青嵐
ふるさとの水は平らに白露の夜
ホッチキスの針飛びやすし花八つ手
秋の蝶剃刀負けをしたようだ
ひたすら見ている秋蝶の引き際
水甕の深き眠りや枯葎

2014年(平成26年) 下期 氷原帯投句作品
  北海道新聞 2015.05.24 朝刊 『俳句閃閃』欄掲載

- 66 -
  

【花畔・網】