寒 の 水

佃島から八月の手紙来る
秋の風草樹ひとしく声挙げて
葛の花大きなカバンの人通る
鉛筆のすべりよき音桐一葉
マフラーの中は最期の母の息
銀杏散る光の束の中におり
まどろみていれば小春のかたちにも   
襟足の辺りが眠い菊人形
クレヨンの十六色を菊膾
玄関を出ていく柩秋の雲
秋霖やエンドロールを懐に
木の瘤となるまで寒の鴉かな
永遠と冬木遊んでいたりけり
弱虫の頃のおとうとお元日
雪の朝きっとどこかで南無阿弥陀
父からの盃を受け冬茜
初富士を懐にして会いにいく
冬凪に科白一つを置いてくる
一端のストーリィティラー寒鴉
決めかねて何度も通る冬疊
雪女化粧筆なら身八つ口
一月の布曳いてくる河口かな
冬涛の男盛りを見てしまう
寒の水静かに飲めば静かに落つ

2016年(平成28年) 上期 氷原帯投句作品
 

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