花 野 ま で

菓子箱の半分までは花の冷え
たましいもさくらもうすき匂いする   
シーツには糊をたっぷり鳥の恋
古書店を抜けて来たのに桜桃忌
喉から八月もれてしまいけり
新薯に少し濃いめの醤油かな
はつのあき何度も洗う化粧筆
白秋や動くものみな影をもち
名画座の狭き階段秋湿り
秋暑し傾けているインク壺
バイブルの一節よぎる野分潮
言いよどむ時間の先の群とんぼ
水底に音階があり秋の蝶
故郷の入口までを草連玉
雁の列また見失う針の穴
死ぬことがこわいと思う衣被
菊月やくるぶし濡れているようで
さしあたり葛の花咲くところまで
漢方の匂いかすかに枯蓮
花野までこんなに遠い空があり

2015年(平成27年) 第49回 北海道俳句協会賞 応募作品
 

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