あ け び

野分あと正座している植物園
むこうから近づいてくる花芒
花かんぞうあの日も海を見ておりし
紅葉寺通るにわかの雨の音
爽籟や木株の黙の極まれり
秋うらら漂白剤が効きすぎる
あけび仰ぐ首の辺りがさらさら
割れそうで笑ってしまうあけびかな
なにか起きる気がしてならぬあけびの実 
老僧の声もあけびも割れやすし
転がっているあけびもっとも怖ろしき
ラ・フランス時には腐食美しき
さよならと書いてまた足す冬燈
間延びした返事が一つ鳥帰る
ゆっくりを絵に描くように枯蓮
バスを待つ時間わたしと初氷
冬満月さびしがり屋が一人いて
仔細は問わずひょいと年跨ぐ
雪無音胸処に潮の匂いして
一本の道につながる芹なずな
春の雪茶葉ゆっくりとひらきおり
眠るとも起きているとも大雪像
寝そべって蜆貝など見ておりぬ
春を待つ黒板の文字跳ねており

2017年(平成29年) 上期 氷原帯投句作品
 この年から,「氷原帯」誌・編集長を務めることになる。

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