九 九 の 表

抽斗の奥春愁と九九の表
晩年の入口あたりつくづくし
レタス割る右と左に春と我
眉の間に来る春風とソースの香
残雪という一人子の欠伸かな
角砂糖融けるまで恋青時雨
梅雨晴間向こう気の強い女です
桜東風破船の影を曳いてくる
筆箱の中にねむっていた五月
ぶかぶかのスニーカー蜃気楼に会いに行く
さよならは先に言ってよ黄砂降る
筍の十二単と格闘す
ご破算で願いましてはバラ満開
とりあえずここで手を打つハリエンジュ
山法師母が教師であった頃
青葉闇エアボクシングしてみたり
柳絮飛ぶ手話は祈りのかたちして
童話なら泣けないはずと青すすき
花胡瓜伝言板が立っていた
たまに未来の話をしよう夏の雲
いちにちの心はずして夜の秋
父の声うしろに蛍袋かな
直角に空切り分けて雁の列
葱刻む忘れたきこと少しあり

2017年(平成29年) 下期 氷原帯投句作品
 

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