硯

芹の水言葉平らに交わされて
春時雨インク溜りを手なずける
春の昼手ぶらの似合う無人駅
誘われて見る木蓮の高さかな
訃報入る桜こんなに満開で
定刻に来る郵便夫春落葉
悪友と代田の水がやってきた
玉葱の一皮ずつにある無頼
緑陰にきのうあしたの風の息
麻を着てまるごと海になっている
じゃがいもの花のうしろが暮れやすい  
いしかりに遺構卯の花腐しかな
ゆっくり歩く睡蓮がついてくる
夏大樹とあいつほとほと手に余る
昔日の運河の跡や苜蓿
振り返るたびに広がる雲の峰
雷を聞いていた夜の硯かな
聞き役が身についてくる夜のビール
塩梅はよろしいようで夕焼ける
姫女苑むこうに父の丸メガネ
途中から満席背高泡立ち草
反古となる文かもしれぬ夜の雷
光彦の句碑熱風を抱きかかえ
テーブルにジン炎昼をそそのかす

2019年(平成31年) 下期 氷原帯投句作品
 
1947年(昭和22年)年,『東圧俳句』として創刊 (2年後『氷原帯』に改名) された俳句誌『氷原帯』は,この年2019年(令和元年)12月号(通巻810号)をもって終刊を迎え,72年の歴史に幕を閉じた。

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