途 中 の 桜

牛乳は旨し三日の喉仏
そういえば朝からこんな雪だった
バス停の数だけ雪の景色かな
ウスターソースゆっくり焦がす寒の晴れ
コットンに水をたっぷり多喜二の忌
父の声する三月の木株かな
岬まで来て春愁に追いつきぬ
春愁い擦られるための燐寸箱
ふところに数珠もち歩く花こぶし
ガラス拭く口中いつか桜闇
手土産の一つ途中の桜かな
桜東風立ち寄っていく死亡欄
機嫌よく眉おさまりて蜆汁
こんな日はいっそ葉桜になってしまおう 
春の風邪電車ゆっくり折り返す
空き部屋の増えてエニシダ明りかな
草原を曲がったばかり多佳子の忌
遠方の花菖蒲から攻めていく
芍薬散華うたた寝の続きかも
雲海をふる里にもつ研ぎ師かな
原稿の四隅炎天かくれおり
石楠花や細事ともかく伝えたり
クレヨンの白が減りゆく夕端居
もうすでに白露焼き立てパンちぎる
頑なな男ふたりに秋刀魚の眼
汀女忌の髪のうしろに雨上がる
銀杏散るまるで序での顔をして
手のひらの葡萄のおもさ中二階
物ぐさな箸になりきる根深汁
来世までの襖の数を考える

2009年(平成21年) 第9回 中北海道現代俳句賞 受賞作品 (既発表作品30句)
 

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